崎山毅『蟷螂の斧』より
昔、仲筋村の酋長の新志花重成(アラシノハナカサナリ)は1匹の犬を飼っていました。重成は常に、良い泉が掘られて竹富の住民が飲料水に困らぬようにと祈願していました。
ある日のこと、重成は犬を連れて散歩に出かけました。ところが、自分の後について来ていた犬がいなくなりました。しばらくすると出てきて、嬉しそうに尾をふり重成の足もとで走り回りました。重成は不思議に思い犬の尾をみたところ、尾の先には泥水がついていました。重成は干ばつであり付近に水溜りもないのに、犬のしっぽがぬれるわけはないと、犬の後を追って芭蕉の森の中に入ってみました。犬はカニの穴に尾を入れここだと言わんばかりに尾で水を振りまきました。
重成は、これは珍しいと思い自分の持っていた杖でこの穴を掘りおこしました。するときれいな水が涌き出し、たちまち付近は小池になりました。重成は自分の念願であった泉が見つかったので大変喜び、その穴を中心に深く掘り下げました。すると、立派な飲料水が湧き出しました。
重成は犬に感謝し、その井戸の形を犬の形に積み上げました。そして自分の日頃の祈念がかなったので井戸の落成式を盛大に行い、その井戸の名前を「シマナーフンナー(めでたい嘉和)」と名付けました。
それから竹富島では、元旦の若水(初水)、出産祝いの命名水等、おめでたいことがあった時は必ず仲筋井戸の水を使うことになったそうです。